こんにちは。松戸市・柏市・流山市で相続に強い税理士の秋元隆正です。
相続ブログの第7回目は、名義預金(家族などの名義でする預貯金)について書いていきます。
なお、名義預金は、相続税の税務調査において申告漏れを指摘されるのが特に多いものでもあります。
目次
・名義預金とは?
・相続税における名義預金の取り扱い
・名義預金の問題点(=贈与の成立の有無)
・名義預金と言われないためには、どうすればいいか。
・最後に
名義預金とは?
名義預金とは、被相続人(自分)の名義ではなく、配偶者・子・孫などの名義を使った預貯金のことです。
この名義預金は、相続税対策や財産隠しに使われることが多いです。
余談ですが、昔はペットの名前(秋元タマ・秋元ポチなど)を使って財産を隠していた人もいるようです。
今現在、その預金口座が残っていて、キャッシュカードを作っていないとしたら、引き出しや解約はできるんでしょうか?
実際に名義預金をしている方たちの主張として、次のようなものがあります。
「贈与をして子や孫の名義になっているから、被相続人(自分)の財産ではない。」
「贈与してから7年以上経過していて時効だから、贈与税も相続税もかからない。」
「どうせ税務署にはわからない。」 など
財産を隠そうという意図がある場合は別ですが、一般の方は概ね次のように思っています。
名義が変わった = 贈与
しかし、国税局・税務署の見方は違います。
では、相続税において名義預金はどのように取り扱われるかを見てみましょう。
相続税における名義預金の取り扱い
相続税の申告の際に相続財産になるものは、被相続人名義の財産だけではなく、家族などの名義であっても実質的に被相続人の財産であれば、相続財産に含まれることになります。
これは、形式的な名義だけを見るのではなく、実質的な部分で財産の所有者を判断するということです。
では、実質的な部分とは何かというと、過去の判例では、以下の要素を総合考慮して判断すると言っています。
① その財産の原資を出したのは誰か
② その財産の管理運用者は誰か
③ 贈与が実際にあったのか
④ その財産から生ずる利益の取得者
⑤ 被相続人と名義人・管理運用者との関係
⑥ その財産の名義人となった経緯 など
これらを総合的に見て、被相続人の財産であると判断された場合には、相続財産に含めて相続税の申告をする必要があります。
もし、当初の相続税の申告に含まれておらず、税務調査で指摘された場合には、修正申告が必要となり、相続税の本税のほかに延滞税・過少申告加算税・重加算税を納めなければならなくなります。(重加算税は、財産隠しなどと認定された場合。)
納税者は「贈与しているから相続財産ではない」と思っていますが、実際の相続財産は上記①~⑥を総合的に判断します。
この認識の差は、贈与が実際に成立しているかどうかです。
次は、名義預金の問題点を贈与に絞って見てみたいと思います。
名義預金の問題点(=贈与の成立の有無)
名義預金の問題点は、名義が変わったから贈与が成立したと思ってしまうところにあります。
しかし、贈与は契約の一種であり、あげる人(贈与者)が「あげますよ。」、もらう人(受贈者)が「もらいますよ。」と双方が認識し、これに基づいて財産の移転があった場合に成立するものです。
従って、片方が財産の移転を知らない場合には、贈与契約は成立しません。
また、双方が知っていても、移転後の財産の管理運用をあげた人がおこなっていれば、実質的には財産が移転していないため、贈与は成立しません。
先述のとおり、国税局や税務署もこれを基準に判断します。
よくある例は、次のとおりです。
(ア)父が子どもや孫名義で預貯金していたが、子どもや孫たちはその口座の存在を知らない。(もらう側が知らないケース)
(イ)子どもや孫に口座があることは知らせているが、通帳と銀行印は父が管理している。(財産の管理者が変わっていないケース)
上記に該当すれば、贈与は成立していないと判断されます。
(イ)のケースでは、「子どもや孫が無駄遣いしないようにするために通帳と印鑑を自分が管理している。」という理由を言いますが、残念ながら理由は関係ありません。
また、贈与税の申告をすれば「贈与が認められる証拠になる。」・「税務署が贈与を認めたということ。」と言う人がいますが、これも違います。
贈与税の申告は、成立した贈与契約に基づいた財産の移転があり、暦年課税であれば、その贈与額が年110万円を超えるなどして、納税義務が発生した場合におこなうものです。
従って、贈与税の申告は、贈与の成立を立証することにはなりません。
あくまで、贈与そのものが成立しているかどうかが重要なのです。
なお、成立していない贈与に対して申告・納税をしても、言い方は悪いですが、勝手に申告・納税しただけとなります。
このように、名義預金は贈与が成立しているか否かが論点になるのです。
そして、贈与が成立していない名義預金をしている人たちの「名義が変わっているから贈与した。」・「贈与から7年以上経っているから時効」という主張は、国税局・税務署に次のように否定されます。
「贈与そのものが成立していないのだから、被相続人の財産です。」
↓
「贈与が成立していないのだから、贈与税の時効なんか関係ありません。」
↓
「相続税の申告では被相続人の財産に含めて、相続税を払ってください。」
名義預金と言われないためにはどうすればいいか。
では、相続税対策で生前贈与をした預貯金が名義預金と言われないようにするためには、どうすればいいのでしょうか?
それは、双方の贈与の意思と財産の移転を明確にできるようにすることです。
そのためには、次のものが必要です。
・贈与契約書を作成する。(最低、双方が自署して実印で押印。印鑑証明書を添付するのも◎)
・新しい口座を作るのではなく、子どもや孫が普段使っている口座に振り込む。
・新しい口座を作るのであれば、通帳や銀行印は本人に渡す。
・銀行印は、家族で同じものを使うのではなく、各人、別々のものを使う。
・現金ではなく、振り込みをする。(お互いの通帳に名前が印字されるのと、安全のため。)
・贈与税の申告が必要になるのであれば、きちんと申告・納税をする。
これらのことをやっておけば、名義預金と言われても、贈与の成立を主張できます。
しかし、他の要素の判断によっては、まだ名義預金と判断されてしまう可能性は残りますが。
最後に
名義預金について、相続税の取り扱いから問題点・名義預金と言われない生前贈与の方法をお伝えしました。
実際には、色々な要素を総合的に判断するため、ケースにより異なることも考えられます。
また、複数人いる子どもや孫のうち、特定の人にしか生前贈与や名義預金をしておらず、結果、相続人同士が揉める原因になってしまうことも考えられます。
不安であれば、一度、相続の専門家に相談することをお勧めします。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
松戸市・柏市・流山市で相続に強い税理士 秋元隆正のブログ第7回
2019年4月8日